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PAIOTU 第2話 プロローグ [PAIOTU「プロローグ」]

新卒で運良く入社できて今年で二年目。
偶々学生時代の行動範囲内におさまる所在地であったこともあり、
引越しをする事も無く、既に5年以上週に五日、駅に向かう道は同じだ。
三階建てのマンションの階段を下りて、左側に向かい、
路地を右に曲がって次の路地を左、そのまま道なりにまっすぐ。
最初の路地から次の路地に向かう左側に古ぼけた銭湯があって、
ちょうどそこを通りがかる時間帯にオヤジが白抜きの男女マークの暖簾をかけている。
朝風呂に言葉だけでなく本気で命をかけてるっぽい老人カップルが手を繋いで並んでいる。
双方逆方向から現れるのを見たことがあるから夫婦ではなさそうだ。
老人に朝風呂なんて血圧上がりそうでぽっくり逝ったりしないのかなとも思うが、
まあ、通りすがりに見るだけの老人がどうなろうと自分は関係ないのでどうでもいい。
夏でも冬でもお揃いで首に巻いている赤いタオルには微妙に興味を覚えるが。

いつもと同じ進路、同じぐらいの時間、同じ風景、同じ目線。

今日は、オヤジじゃなくて若くてわりと綺麗っぽいねえちゃんだった。

自宅にはユニットだが風呂はあるので、その銭湯には行ったことがないから、
その銭湯に娘が居るのか、息子が居てその嫁なのか、なんてことは勿論知らない。
それ以前に、その銭湯の住人らしき人物はオヤジしか見たことが無いし。

つか、銭湯の暖簾掛けるのにあの格好はねぇだろ?

顔は普通だけどなりふり構わない露出振りで一発当てた女性歌手に明らかに影響を受けているとしか思えない上半身と、ケミカルジーンズの組み合わせって一体……
紫色の胸元のひらひらと無理矢理寄せ上げて出来た真ん中の一本線が涙を誘う。
しかもキャミソールの上に羽織る七分丈のシャツはピンクのヒョウ柄だ。
5年以上規則正しく代わる事の無かったそこの存在がオヤジじゃない違和感よりも、
この場における適応性とかを全く無視しつつ、切り離して単体で見たとしても統一性の欠片も無いそのいでたちに目を離す事が出来ず、思わず立ち止まってしまった。

3メートルも離れてないところでの足音が止まったことに気が付いたらしいねえちゃんが、
こちらを振り返り、にこやかに微笑みかけて軽く会釈をした。

綺麗っぽい感じなんだけどすげぇ地味顔じゃね?

立ち止まってしまった手前、無視していくわけにも行かないのでとりあえず会釈を返しておく。
目線を元に戻す際に自然辿った先にあった一本線から推測するに、少々中心から離れ気味だろうか?
鎖骨の下の膨らみがほとんどないから見た目の歳の割りに重力に素直そうな感じで、顔はすげぇ地味だけど服装の趣味的に見るとそこそこ晒してそうな感じだからピンクじゃないよな。
つか、あの形でピンクだったらそれこそ統一感ねぇし。

「違う、これじゃねぇ」
流石にはっきり発音するのは失礼なような気がしたので、音に出さずに呟いてそのままそのねぇちゃんから視線を外し、駅への道を急ぐ事にした。
いつもぎりぎりで行動しているので、この時間のロスで電車の乗り遅れてしまうのはまずい……
いつも出勤途中に聞いているipodの曲が、顔は普通だけどなりふり構わない露出振りで一発当てた女性歌手の新曲に変わった。


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